泡瀬干潟訴訟―住民訴訟―
1 事案の概要
沖縄市にある泡瀬干潟は,南西諸島で最大級の規模を誇る干潟である(干潟部分約290ha,藻場部分約112ha)。この干潟と周辺海域約185haを訴外・国と沖縄県(Y1)が埋め立てて土地造成を行い,沖縄市(Y2)が90haを買い取り,開発するという埋立事業計画に対し,沖縄県または沖縄市の住民であるXらが,Y1およびY2に対し,本件埋立事業に関する一切の公金の支出等の差止めを求めた。
・第1審(那覇地判2008年11月19日LEX/DB25440131)
請求を一部認容して公金支出の差止めを認めた
・第2審(福岡高裁那覇支判2009年10月15日判時2066号3頁)
Y1・Y2が控訴したが,控訴審も,基本的に原審を維持した
2 控訴審の判断 一部変更,一部控訴棄却
「事業者が,公有水面埋立免許又は承認を得た後,埋立地の用途等を変更する必要が生じたが,いまだ免許権者からその旨の変更許可を得ていない場合であっても,当該変更許可を得られる見込みがある限りは,暫定的に埋立工事を継続することは,予算執行における裁量権を逸脱するものではなく,地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に違反する違法なものとはいえない。」
本件事業に関し「従前の土地利用計画につき根本的な見直しが行われている現段階において,本件埋立事業等に基づく埋立工事を継続することができるか否かは,法的には,・・・・・・公有水面埋立法第13条ノ2に基づく本件埋立免許及び承認の変更許可を得られる見込みがあるかどうかにかかることになり,これを,より実質的にみれば,現在沖縄市において策定中の新たな土地利用計画に経済的合理性が認められるかどうかにかかることになる。そして,新たな土地利用計画に経済的合理性が認められないにもかかわらず,漫然と,従前の土地利用計画に基づいて埋立工事が継続されているとすれば,これに係る公金の支出等の財務会計行為は,違法と評価されることになる。」
現時点においては,「経済的合理性の調査・検討がされていない以上,今後策定される予定の土地利用計画を前提として,本件埋立免許及び承認の変更許可が得られる見込みがあると判断することは困難である。」「そうすると,控訴人らは,裏付けとなる法律上の根拠(本件埋立免許及び承認の変更許可)が得られる見込みが立っていないのに,本件埋立事業等を推進しようとしていると評価せざるを得ないから,本件埋立事業等に係る財務会計行為(本件各財務会計行為)は,予算執行の裁量権を逸脱するものとして,地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に違反する違法なものというべきである。」
3 本判決の特徴
もともと,本件では,事業の合理性のほか,環境アセスメント(以下「アセス」という)の瑕疵も大きな争点となっていた。本判決は,鳥類調査の精度の不十分さ等を指摘し,「本件環境影響評価には,不十分な点が散見される」と批判したものの,これが違違なものであるとまではいえないと判示した。
しかし,本判決は,本件事業が大幅変更されたことについて,経済的合理性の調査・検討がされていないことを理由に,現時点では埋立免許等の変更許可が得られる見込みがなく,そのような事業に係る公金支出は違法であるとして,差止請求を認容したものである。
もっとも,本判決は,埋立免許等の変更許可を求めるためには所要の調査が必要となるから,そのための調査費等に係る公金支出は違法とはいえないとも判示した。本件は控訴審で確定したが,沖縄市は,事業計画を練り直しさえすれば事業の続行は可能であるとの解釈に立って,新たな事業計画を策定し,あくまでも埋立事業を継続する姿勢を崩さなかった。
4 控訴審以降の動向
・2011年に入り,国と沖縄県は埋立計画の変更を申請。
・2011年5月27日,前川盛治(泡瀬干潟を守る連絡会・事務局長)氏は,沖縄県,沖縄市へ監査請求書を提出
・2011年6月28日 沖縄県が監査請求却下
→関連書類参照
・2011年7月15日 沖縄市が監査請求却下
→関連書類参照
・2011年7月22日
住民等が沖縄県と沖縄市に対し,第二次訴訟を提起
沖縄県に対する訴状
沖縄市に対する訴状
・2011年8月12日
日弁連が泡瀬干潟埋立事業中止の意見書(3度目)
→http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/110805.pdf
・2011年10月14日
国は埋め立て工事を再開
→http://saveawasehigata.ti-da.net/d2011-10.html
関係先リンク
・泡瀬干潟を守る連絡会Blog http://saveawasehigata.ti-da.net/c122551.html
・沖縄市改訂計画案
「東部海浜開発事業~国際文化観光都市の実現を目指して~スポーツコンベンション拠点の形成」(2010年7月沖縄市)