従来の意見提出制度が,基本的に行政のイニシアティブで行われる手続であるのに対し,提案制度は,市民のイニシアティブで開始される手続として位置づけることができる。この種の制度の端緒としては,古くから,経済法・消費者法の分野における申出制度や,各種懲戒処分に係る措置請求制度がある(大久保規子「市民と行政法解釈」公法研究66号(2004年)236頁以下参照)。
これに対し,近年は,まちづくり,地域活性化等の分野において,事業者やNPO法人等に一定の提案権を付与し,行政にその提案に対する判断を義務付ける制度が導入され始めている。そこで,ここでは,そのような提案制度を定める法律をリスト化して掲載する。
もっとも,一口に提案制度と言っても,事業者や所有者の提案制度とNPOの提案制度では,大きな違いがある(大久保規子「協働の進展と行政法学の課題」磯部力=小早川光郎=芝池義一編・行政法の新構想Ⅰ(有斐閣・2011年)223頁以下参照)。例えば,所有権者(ディベロッパー等)の都市計画提案制度は,環境を利用する者の権利をさらに強化する側面を有するのに対し,環境を守ろうとするNPOが一見類似した都市計画法や景観法の提案制度を利用する場合には,所有権等を基礎としないため,多者協議によって多様な利益を調整し,合意を積み上げることによってしか提案内容を練り上げることができない。それゆえ,提案制度を設計・活用する場合には,透明性,公平性の確保といった観点から,多様な利益が適切に反映されるように配慮することが重要となる。