自然の権利プロジェクトについて
環境分野では,環境権,コミュニティの権利,将来世代の権利,自然の権利等,さまざまな新しい権利が主張されてきました。この数年,とくに環境権を憲法に規定する国が急増し,環境立憲主義(environmental constitutionalism)と呼ばれる潮流が生まれています。国連人権理事会の環境と人権に関する特別報告者であるデビット・ボイドによれば,環境権を認める国は155か国に達しているとされています(Catalyst for change: evaluating forty years of experience in implementing the right to a healthy environment, 2018)。
さらに,最近では,憲法(エクアドル等),法律(ボリビア等),判例(インド等)により自然の権利を認める国が現れるなど,環境をめぐる権利の概念は変容し,その主体も確実に広がっています。しかも,最近では,環境裁判所を設ける国が増え,環境司法の専門化というべき現象が認められる中で,新たな訴訟類型,審理原則(「疑わしきは自然に有利に」等)を設けるなど,自然保護に特有の訴訟制度の整備も進んでいます。
グリーンアクセスプロジェクトでは,これまで情報アクセス権,決定への参加権,司法アクセス権という,3つの手続的権利の実現を目指し,研究を実施してきました。本研究(科研基盤A「自然の権利の理論と制度ー自然と人間の権利の体系化をめざして」2020~2024年度)では,今までの人間の権利に加え,自然の権利に焦点を当てて理論および制度の両面から検討することにより,環境に関する諸権利の意義と内容を再考し,その相互関係を明らかにすることにより,自然と人間の権利の体系化をめざします。
そのために,法学だけではなく,環境社会学,環境経済学,サステナビリティ学,環境倫理学等の観点から,①自然の権利論の文化的・社会的背景,②自然の権利と環境に関する人間の諸権利の異同,③自然の権利の救済方法,④自然の権利を考慮した参加型の政策決定の仕組みの4つの柱を立てて,学際的な国際共同研究を行います。